2026年9月27日、井上拓真那須川天心を相手に、WBC世界バンタム級王座の2度目の防衛戦を行います。10か月前に自分が勝っている相手を、今度は王者として迎える試合です。

この記事では、井上拓真という選手をプロ24戦の記録だけで見ていきます。「井上尚弥の弟」という枠を外して、デビューからの12年9か月ぶんを1試合ずつ並べると何が見えるか、という話です。

30秒でわかる 井上拓真

ひとことで プロ24戦でKO負けが一度もない王者。2敗はどちらも12ラウンドを戦い切っての判定
年齢・身長 30歳(1995年12月26日生まれ)/164cm
所属 大橋ボクシングジム
戦績 24戦22勝(5KO)2敗
KO率 22勝のうちKOは5つ=約2割
2つの黒星 2019年11月7日/ノルディーヌ・ウバーリに判定0ー3
2024年10月13日/堤聖也に判定0ー3
獲った世界王座 WBC暫定(2018年)→ WBA(2023年)→ WBC(2025年〜・現在保持)
次の試合 2026年9月27日/WBC世界バンタム級タイトルマッチ(Prime Video Boxing 16

1. 3度倒されて、3度とも立っています

井上拓真は2013年12月のデビューから24戦を戦い、うち2敗しています。その2敗とも、12ラウンドを戦い切っての判定負けです。倒されて試合を止められたことは、プロで一度もありません。

ダウンを奪われた試合は、分かっているかぎり3つあります。そのうち1つは、倒されたうえで勝っている試合です。

  • 2019年11月7日 ノルディーヌ・ウバーリ戦=4ラウンドに左ストレートでダウン。そのまま判定0ー3で敗れ、WBC王座の統一に失敗しました
  • 2024年5月6日 石田匠戦=初回、開始2分ごろにカウンターのジャブでダウン。ここから立て直し、118-109/118-109/116-111の大差で判定勝ちしてWBA王座を防衛しています
  • 2024年10月13日 堤聖也戦=10ラウンドにロープ際でダウンと判定。判定0ー3でWBA王座を失いました

🔴 石田戦がこの選手をよく表しています。世界戦の初回にいきなり倒されながら、そこから12ラウンドで2人のジャッジに9ポイント差をつけて勝っています。倒されても崩れないタイプで、なおかつ自分から倒しにも行かない。ここが、9月27日の見どころにそのままつながります。

2. プロ24戦を、1試合も省かずに並べます

デビュー戦から最新戦まで、順番どおりに全部並べます。太字は世界戦です。

No. 日付 相手 結果 かかっていた王座
1 2013年12月6日 福原辰弥 判定3ー0 ○ デビュー戦
2 2014年4月6日 ファーラン・サックリン・ジュニア 判定3ー0 ○
3 2014年9月5日 チャナチャイ・ソーシアムチャイ 2回0分51秒KO ○
4 2014年12月30日 ネストール・ナルバエス 判定3ー0 ○
5 2015年7月6日 マーク・アンソニー・ヘラルド 判定3ー0 ○ OPBF東洋太平洋S・フライ級王座決定戦
6 2015年12月29日 レネ・ダッケル 判定3ー0 ○ OPBF 防衛1
7 2016年5月8日 アフリザル・タンボレシ 2回1分46秒TKO ○ OPBF 防衛2
8 2016年9月4日 フローイラン・サルダール 判定3ー0 ○
9 2017年8月30日 久高寛之 判定3ー0 ○
10 2017年12月30日 益田健太郎 判定3ー0 ○
11 2018年5月25日 ワルド・サブ 1回2分14秒KO ○
12 2018年9月11日 マーク・ジョン・ヤップ 判定3ー0 ○ WBC世界バンタム級挑戦者決定戦
13 2018年12月30日 ペッチ・CPフレッシュマート 判定3ー0 ○(117-111×3) WBC世界バンタム級暫定王座決定戦
14 2019年11月7日 ノルディーヌ・ウバーリ 判定0ー3 ● WBC世界バンタム級王座統一戦
15 2021年1月14日 栗原慶太 9回2分25秒 負傷判定3ー0 ○ OPBF東洋太平洋バンタム級タイトルマッチ(王者の栗原に挑戦して奪取)
16 2021年11月11日 和氣慎吾 判定3ー0 ○(117-110×3) WBOアジアパシフィックS・バンタム級王座決定戦
17 2022年6月7日 古橋岳也 判定3ー0 ○(119-109/120-108×2) WBOアジアパシフィック・日本S・バンタム級王座統一戦
18 2022年12月13日 ジェイク・ボルネア 8回2分48秒TKO ○
19 2023年4月8日 リボリオ・ソリス 判定3ー0 ○ WBA世界バンタム級王座決定戦
20 2024年2月24日 ヘルウィン・アンカハス 9回0分44秒KO ○ WBA 防衛1
21 2024年5月6日 石田匠 判定3ー0 ○(118-109/118-109/116-111)
初回に井上がダウンを喫している
WBA 防衛2
22 2024年10月13日 堤聖也 判定0ー3 ●(110-117/113-114/112-115) WBA 王座陥落
23 2025年11月24日 那須川天心 判定3ー0 ○(117-111/116-112/116-112) WBC世界バンタム級王座決定戦
24 2026年5月2日 井岡一翔 判定3ー0 ○(120-106/119-107/118-108) WBC 防衛1

24戦のうち19戦が採点で決着しています(うち1戦は9回での負傷判定)。倒して終わったのは5戦だけで、そのうち3戦は2018年までの若いころに集まっています。

世界戦にかぎると、KOで勝ったのは2024年2月のアンカハス戦の1回だけ。それ以外の世界戦は、勝ちも負けも全部12ラウンドを戦い切っています。

3. 「倒さない王者」が、井岡一翔を2度倒した

直近の2026年5月2日、東京ドーム。井上拓真は元4階級制覇の井岡一翔を相手に、2回と3回で2度のダウンを奪いました。それでも試合は止まらず、12ラウンドを戦って判定3ー0です。

採点は120-106/119-107/118-108。14ポイント差、12ポイント差、10ポイント差という大差でした。井岡の日本男子初となる5階級制覇は、ここで止まりました。

🔴 この採点は、数字の上でも「2度のダウン」と辻褄が合っています。12回戦は、どのラウンドも10対9でつけると両者の合計が19点×12=228点になります。ダウンのあったラウンドは10対8になるので、1ダウンにつき合計が1点減ります。井岡戦の3枚はすべて合計226点で、ちょうど2点少ない。3人のジャッジが同じ2つのダウンを採点に入れた、と考えると辻褄が合います。

※ジャッジが互角と見て10対10をつけたラウンドがあると、この計算はずれます。ここでは3枚が同じように2点減っているので、ダウンが反映されたと見るのが自然、という読み方です。

ただし2度倒しても、倒し切ってはいません。これが井上拓真という選手の形です。当てる力はあるが、仕留めに前へ出るより、残りのラウンドを安全に運ぶほうを選びます。

4. ここは間違えやすい|ベルトを「守り続けて」はいません

「WBC世界バンタム級王者・井上拓真」と書かれると、ずっと王者を続けてきたように見えます。実際はちがいます。

  • 2018年12月 WBC暫定王座を獲得(ペッチ戦)
  • 2019年11月 統一戦でウバーリに敗れ、王座を失う
  • 2023年4月 WBA王座を獲得(ソリス戦)
  • 2024年10月 堤聖也に敗れ、2度目の王座陥落
  • 2025年11月 空位だったWBC王座を獲得(那須川戦)

つまりベルトを2度失って、そのたびに獲り直しています。とくに堤戦で失ってからWBCを獲るまでは13か月です。

🔴 もう1つ間違えやすいのが、WBCの王座が「2度目」だということ。2018年に獲ったのは暫定王座で、いま持っている正規王座とは別物です。当時はウバーリが正規王者で、その統一戦に負けて暫定王座も手放しました。同じ団体のベルトですが、7年の間が空いた別のベルトです。

🔴 さらに、2025年11月の那須川戦は「井上が防衛した試合」ではありません。王座は空位で、2人ともベルトを持っていない状態の王座決定戦でした。9月27日は、そこから数えて2度目の防衛戦になります。

5. 堤聖也戦の「10回のダウン」は、採点を1枚だけ動かしていた

2敗のうち新しいほう、2024年10月13日の堤聖也戦(有明アリーナ)を、採点の数字だけで見てみます。

3人の採点は110-117/113-114/112-1153枚とも合計が227点です。全ラウンド10対9なら228点なので、3人ともどこか1ラウンドを10対8でつけた形になります。10ラウンドのダウンと見てよさそうです。

そこで、仮にあのダウンが取られず、そのラウンドが10対9だったとしたら、と計算してみます。

  • 110-117 → 111-117(堤の勝ち)
  • 113-114 → 114-114引き分け
  • 112-115 → 113-115(堤の勝ち)

🔴 つまり、あのダウン1つで動いたのは3枚のうち1枚だけで、勝敗そのものは変わりません。試合後に井上陣営からレフェリーへ抗議の声が飛びましたが、この試算どおりなら、抗議が通っていても堤の勝ちでした。井上は10ラウンドより前に、すでに大きく離されていたということです。

※これは最終採点からの試算です。ラウンドごとの採点表は公開されていないので、3人が10対8をつけたラウンドが本当に10ラウンドだったかまでは確かめられていません。

そしてもう1つ。堤聖也は、井上拓真がアマチュア時代に一度勝っている相手です。2人は同学年で、高校2年のインターハイ・ライトフライ級準決勝で対戦し、そのときは井上が判定で勝っています。12年後にプロで再戦して、負けました。

🔴 ここが9月27日につながります。井上拓真にとって「同じ相手と2度目」は、これが人生で2回目です。1回目は負けています。

6. 9月27日の見どころを3つに絞ると

  • ① 前回の採点は「僅差」ではありません=2025年11月の那須川戦は117-111、116-112、116-112。4〜6ポイント差、ラウンドにして2〜3ラウンド差です。1ラウンド差の接戦ではないので、那須川が同じ戦い方をしても届きません
  • ② 倒されない者どうし=井上は24戦してKO負けゼロ。那須川も公式戦で一度も倒されていません。12ラウンド行けば、決着は採点に委ねられます
  • ③ 井上にとっても「初めての再戦」=プロ24戦で、同じ相手と2度戦うのは初めてです。前回の映像が両方の手元にある試合を、王者側も経験していません

挑戦者側の数字は、こちらにまとめています。

【深掘り】那須川天心は公式戦51試合で一度も倒されていない|井上拓真への再挑戦

この試合の勝敗予想は、別の記事にまとめています。

【予想】井上拓真 vs 那須川天心|前回の「116-112」は僅差じゃない。那須川が勝つ道は1本しかない

当日の全カードと時刻は、こちらです。

井上拓真vs那須川天心は何時から?全カードと配信(9月27日)

この記事で使った出どころ

  • 戦績の並び=Wikipedia(日本語版「井上拓真」)を土台に、主要な試合ごとに別の媒体で照合しました。照合の結果、2021年1月14日の栗原慶太戦はWikipediaの表にある「王座決定戦」ではなく、王者だった栗原に井上が挑戦したタイトルマッチと分かったため、そちらを採用しています(Boxing News、ベースボール・マガジン社、東日本ボクシング協会)
  • 通算戦績24戦22勝(5KO)2敗=大橋ボクシングジム公式、ボクシングモバイル
  • 井岡一翔戦(2026年5月2日・東京ドーム・判定3ー0/120-106、119-107、118-108・2回と3回にダウン)=ゴング格闘技、eFight、スポーツニッポン、THE DIGEST
  • 石田匠戦(2024年5月6日・東京ドーム・判定3ー0/118-109、118-109、116-111・初回に井上がダウン)=Boxing News、日刊スポーツ、ボクシングモバイル
  • 堤聖也戦(2024年10月13日・有明アリーナ・判定0ー3/110-117、113-114、112-115・10回にダウン判定・インターハイでの対戦歴)=デイリースポーツ
  • 那須川天心戦(2025年11月24日・判定3ー0/117-111、116-112、116-112)=Wikipedia日本語版、当サイトの再戦カード記事で使った各媒体

🔴 数字が媒体によって食い違ったものは、2つ以上が一致した内容だけを書いています。採点は「両者の合計が19点×ラウンド数を超えない」という検算を通しました。確かめられなかったことは書いていません。誤りを見つけられた場合は、ご指摘いただけると助かります。