9月27日、井上拓真と那須川天心がもう一度戦います。前回は井上の判定勝ち。あれから10か月、「今度は那須川が勝つのでは」という声をよく見かけます。

でも、前回の採点用紙をもう一度よく見ると、そんなに単純な話ではありませんでした。この記事では、雰囲気や期待ではなく前回ついた点差を数え直すところから、この試合を予想します。

先に結論:判定までいけば井上、倒しに行った那須川が捕まえれば那須川

理由を先に3つだけ書いておきます。

  • 前回の「116-112」は、世間で言われているほど僅差ではなかった
  • 前回の那須川は、終盤に自分でやりたかった戦い方ではなく、やらざるを得ない戦い方をさせられていた
  • この10か月で、那須川だけでなく井上も「倒す力」を上げて戻ってきた

順番に見ていきます。

まず、前回の「116-112」がどれくらいの差なのか

2025年11月24日のWBC世界バンタム級王座決定戦。判定は3-0で井上拓真の勝ちでした。3人のジャッジの点数はこうです。

  • 116-112(井上)
  • 116-112(井上)
  • 117-111(井上)

ボクシングの採点は、1ラウンドごとに勝ったほうに10点、負けたほうに9点をつけるのが基本です(10ポイントマスト制)。ダウンがなければ、1ラウンド取るごとに1点ずつ差がついていきます。

ということは、点差を数えれば「何ラウンド差だったか」が分かります。

  • 116-112 は4点差 → 12ラウンド中、井上が8ラウンド・那須川が4ラウンド
  • 117-111 は6点差 → 井上が9ラウンド・那須川が3ラウンド

つまり3人のジャッジ全員が、「那須川が取れたのは12ラウンド中3〜4ラウンドだけ」と見ていたことになります。これは「惜しかった判定」ではありません。はっきり差がついた試合です。

「那須川はよくやった」という感想と、「採点は明確だった」という事実は、両立します。今回を予想するなら、後者から出発しないと見誤ります。

※採点の仕組みそのものは「3-0」「2-1」の意味とボクシングの採点の仕組みで解説しています。

差がついたのは、3ラウンド目からでした

前回の試合の流れは、はっきり分かれていました。

1〜2ラウンドは那須川のペースです。持ち味のスピードと細かいステップで、左のパンチを先に当てていました。ここだけ見れば、那須川が勝つ試合に見えました。

3ラウンド以降、井上が変えます。那須川のスピードに目が慣れたところで距離を詰め、近い間合いで右ストレートを当て始めました。

那須川の強さは「相手に見せてから、別のところに当てる」タイプの上手さです。これには距離が要ります。近づかれて、下がる場所を消されると、いちばんの武器が使えません。井上がやったのは、まさにその距離の潰し合いでした。

ここが今回いちばんの争点です。那須川は3ラウンド目からの井上に、答えを用意できたのか。

見落とされがちな「もう一人の登場人物」=公開採点

前回の試合を語るとき、あまり触れられていない要素があります。公開採点です。

公開採点とは、試合の途中でジャッジの点数が場内に発表される仕組みのこと。世界戦では8ラウンド終了時などに出ます。選手も陣営も、残りのラウンドで「勝っているのか、負けているのか」が分かります。

前回、8ラウンド終了時に発表された数字はこうでした。

  • 77-75(井上)
  • 78-74(井上)
  • 76-76(引き分け)

井上の2-0リードです。さきほどの数え方をすると、78-74は8ラウンド中6ラウンドを井上が取っているという意味になります。

この瞬間、那須川の残り4ラウンドの選択肢は事実上1つになりました。倒しに行くしかない、です。

実際、終盤の那須川はガードを下げた変則的な動きで前に出ています。あれを「那須川らしい攻め」と見た人も多かったと思いますが、私はそう見ていません。あれは、やりたくてやった動きではなく、点数に追い込まれてやらされた動きです。

そして今回、那須川はそれを知った状態でリングに上がります。ここが前回との最大の違いです。

この10か月で、那須川が手に入れたもの

那須川は2026年4月11日、両国国技館でファン・フランシスコ・エストラーダと戦い、9ラウンド終了時のTKO勝ちを収めました。相手陣営が棄権を申し入れる形での決着です。これで指名挑戦者となり、再戦の権利をつかみました。プロボクシングの戦績は9戦8勝1敗3KOになりました。

ここは、少し冷静に見ておきたいところです。エストラーダは45勝4敗という立派な戦績の名選手ですが、キャリアの終盤にあります。全盛期の彼を倒したわけではありません。「エストラーダに勝ったから井上にも勝てる」とは言えません。

ただし、この試合には別の意味があります。那須川が9ラウンド、圧力をかけ続けたという事実です。相手に「もう無理だ」と言わせるところまで押し込んだ。前回の井上戦で足りなかったのは、まさにこの「押し込み続ける力」でした。そこは確実に埋まっています。

この10か月で、井上が手に入れたもの

ここが、多くの予想が見落としているところだと思います。

井上拓真は2026年5月2日、初防衛戦で井岡一翔と対戦し、3-0の判定勝ち。しかもこの試合、ダウンを2回奪っています。

井上拓真の戦績は21勝5KO2敗。KO率にすると約24%で、もともと倒すタイプの選手ではありません。前回の那須川戦でも、12ラウンド戦って倒せませんでした。「倒さない王者と、倒しに行く挑戦者」——これが今回の一般的な構図です。

でも、その井上が、元4階級制覇の井岡一翔から2度もダウンを奪った。これは「たまたま」で片づけていい出来事ではありません。

那須川も倒す力を上げた。井上も倒す力を上げた。

だから、今回は「前回と同じ試合」にはならない

ここまでを組み合わせると、前回との違いがはっきりします。

前回は、那須川が先に出て、井上が受けてから距離を詰める展開でした。だから山場は中盤以降に来ました。

今回は、那須川が「12ラウンド走って判定で取る」道を選びにくい。前回4点差をつけられた相手に、判定勝ちを狙うのは分が悪すぎるからです。となれば、序盤から仕掛けるしかありません。

一方の井上は、距離を詰めれば那須川を捕まえられることを、前回すでに証明しています。そこにダウンを奪える精度が加わった。

結論として、前回より早い時間に、両者が近い距離で交わる可能性が高い。これが私の見立てです。試合として面白くなるのは、ほぼ確実だと思っています。

4つのシナリオと、その見立て

No シナリオ 中身 見立て
1 井上の判定勝ち 前回と同じ。3ラウンド以降に距離を潰し、点を積む いちばんありそう
2 那須川の中盤KO勝ち 5〜9ラウンドで井上を捕まえる。エストラーダ戦の押し込み方が再現できた場合 次にありそう
3 井上のKO勝ち 詰めた先でダウンを奪い、そのまま止める 前回までなら考えなかったが、井岡戦を見たあとでは無視できない
4 那須川の判定勝ち 12ラウンド走り切って点で取る いちばん難しい道

4番が難しい理由は、もう分かってもらえると思います。前回、3人のジャッジ全員に「取れたのは3〜4ラウンドだけ」と判断された相手に対して、12ラウンドかけて点でひっくり返すのは、10か月の上積みでは足りない可能性が高いからです。

那須川が勝つなら、倒すしかない。そして那須川本人が、それをいちばんよく分かっているはずです。だから荒れます。

見る前にこれだけ押さえると、10倍おもしろくなる3つのポイント

① 3ラウンド目、那須川が下がるか・前に出るか

前回、井上が距離を詰め始めたのが3ラウンドでした。ここで那須川が同じように下がるなら、前回のリプレイが始まります。逆に前に出て打ち合いを選ぶなら、那須川は前回の反省を行動に移してきたということです。

② 8ラウンド終了時の公開採点の数字

ここで那須川がリードしているか、並んでいるか、負けているか。負けていれば、残り4ラウンドは前回と同じ「倒すしかない時間」になります。この数字が出た瞬間、試合の結末はだいたい決まります。

③ 井上の右ストレートが、前回と同じタイミングで出るか

前回、井上の右は「那須川が左を出した直後」に返ってきていました。那須川がそこを消せているかどうかが、対策ができているかの答え合わせになります。

試合情報

項目 内容
日時 2026年9月27日(日)16:30開始
会場 TOYOTA ARENA TOKYO
タイトル WBC世界バンタム級タイトルマッチ 12回戦
王者 井上拓真(21勝5KO2敗)
挑戦者 那須川天心(9戦8勝1敗3KO・WBC1位/指名挑戦者)
配信 Amazon Prime Video 独占(Prime Video Boxing 16)

この日は世界戦が4つ組まれています。詳しくは下の関連記事からどうぞ。

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※この記事の予想は格闘録編集部の見解です。戦績・日程・配信情報は2026年9月11日時点のものです。変更されることがありますので、観戦前に主催者・配信サービスの公式発表をご確認ください。