2026年9月21日、八王子で佐々木尽と3冠統一戦を戦うセムジュ・デビッド(中日)。日本ウェルター級王者であり、WBOアジアパシフィック王者でもある33歳です。そして、ウガンダ人です。

「佐々木尽の相手」として名前は出ても、この選手そのものを説明した日本語の記事は多くありません。プロ11戦しかないのに、そのうち5試合が日本王座戦という、かなり変わった経歴の持ち主です。11戦を全部並べたうえで、どこから来て何を目指しているのかを整理します(試合の日程と配信はこちら)。

30秒でわかるセムジュ・デビッド

  • いまの立場第59代日本ウェルター級王者(4度防衛)+WBOアジアパシフィック王者。11戦9勝(5KO)1敗1分
  • どこの国の人か=ウガンダ・カンパラ出身。2021年に開催された東京五輪にウガンダ代表として出場(ミドル級・1回戦敗退)
  • 次の試合=2026年9月21日、佐々木尽と3冠統一戦。日本王座は5度目、WBO-AP王座は2度目の防衛戦
  • あまり書かれていない一点プロデビューは29歳のとき。それから4年半で日本とアジアのベルトを2本巻きました

1.プロ11戦を全部並べた

まず戦績です。11戦のうち、最初の4戦はウガンダ国内。日本に来てからの7戦のうち5試合が日本王座戦です。前座で経験を積む時間がほとんどないまま、いきなりタイトル戦線に入った選手だということが分かります。

日付 相手・結果
2026年3月24日 浦嶋将之と10回0-1のドロー 日本4度目・WBO-AP初防衛
2025年8月21日 野上昂生に8回2分58秒TKO勝ち 日本王座を防衛しWBOアジアパシフィック王座も獲得
2025年3月23日 シーサー皆川に10回3-0判定勝ち 日本王座を防衛
2024年12月12日 小畑武尊に10回3-0判定勝ち 日本王座を防衛
2024年8月27日 石脇麻生に7回TKO勝ち 日本ウェルター級王座を獲得(第59代)
2024年6月8日 カムロンベク・エシュマトフに8回1-2判定負け ※唯一の黒星
2024年3月31日 能嶋宏弥に8回2-1判定勝ち 日本デビュー戦(愛知・刈谷)
2023年7月29日 ケネディ・ウェルに5回TKO勝ち ウガンダ・ミドル級王座を獲得
2022年10月15日 ハーバート・ムガルーラに3回KO勝ち
2022年7月23日 サマリ・フットに1回TKO勝ち
2022年4月1日 ハムザ・ウィップに6回3-0判定勝ち プロデビュー戦(ウガンダ)

注目したいのは日付の間隔です。日本デビューが2024年3月31日で、そこからわずか5か月後には日本王座を獲っています。そして日本での7戦のうち、10回戦を3試合、8回戦を2試合、最後までフルに戦っています。KO率は高くありませんが、長いラウンドを戦い慣れている選手だということです。

2.ウガンダから名古屋へ|五輪代表が、なぜ日本の小さなジムに

セムジュ・デビッドは1992年11月11日、ウガンダの首都カンパラ生まれ。2021年に開催された東京五輪に、ウガンダ代表としてボクシング・ミドル級(69〜75kg)で出場しています。結果は1回戦敗退でした。

プロに転向したのは、その翌年の2022年4月。29歳でのデビューです。母国で4戦を戦い、ウガンダのミドル級王座を獲ったところで日本へ渡りました。

頼ったのは、同郷のトレーナー

中日スポーツの取材によると、来日は2023年末。同じウガンダ出身のトレーナー、ジョフレ・ジェフ・イマさん(47)を頼って名古屋の中日ボクシングジムにやってきたと報じられています。

背景には、経済の事情もあります。同紙は「世界銀行のデータでは、ウガンダの1人当たり名目国民総所得は日本のおよそ40分の1」と書いています。デビッド自身も、ウガンダの家族に仕送りをしながら戦っています。

ジムでの会話は、ほとんど日本語

同じ記事によれば、酒もたばこもやらない物静かな性格で、来日当初は「もしもし」しか知らなかった日本語を、中日ジムの故・織田秀樹会長に教わって覚えたとのこと。いまはジムでの会話のほとんどが日本語だといいます。

そして、この選手の目標は世界王座だけではありません。中日スポーツは「日本でボクシングのアカデミーを作りたいんだ」という本人の言葉を見出しに掲げています。名古屋から世界に出てチャンピオンになり、その先に自分の場所を作る――というのが、この33歳の描いている絵です。

五輪はミドル級、いまは66.68kg以下

もうひとつ、地味ですが重要な事実があります。東京五輪で出場したミドル級は69〜75kgの階級で、いま戦っているプロのウェルター級は66.68kg以下です。階級の上限だけを比べると約8.3kg軽いことになります(本人が当時75kgちょうどだったかどうかは公表されていないため、実際の減量幅は分かりません)。もともと一回り大きい体格で戦っていた選手だという点は、頭に入れておく価値があります。

3.日本王座を4度守った内訳

セムジュの強さがいちばんよく表れているのが、日本王座を獲ってからの5試合です。相手は全員が日本のランカーで、しかも毎回タイプが違います。

相手 結果 内容
石脇麻生 7回TKO勝ち 王座獲得。日本デビューからわずか5か月
小畑武尊 10回3-0判定勝ち 初防衛。フルラウンドで3者とも支持
シーサー皆川 10回3-0判定勝ち 2度目の防衛。ここも3-0
野上昂生 8回2分58秒TKO勝ち 3度目の防衛+WBO-AP獲得。序盤は苦しみ、後半に逆転
浦嶋将之 10回ドロー 4度目の防衛。ベルトは保持したが、勝ち切れなかった

とくに2025年8月21日の野上昂生戦は、この選手を理解するうえで分かりやすい一戦でした。中日スポーツの報道によれば、3回には相手の左ジャブを浴びて苦しい場面があったものの、徐々に手数で上回り、7回以降は一方的に攻めてレフェリーストップに持ち込んでいます。試合後のコメントも、勝ち誇るものではありませんでした。

「まずは機会をくれた神に感謝したい。ファンや中日ジムの皆さんが支えてくれたおかげで、つらい試合を勝利することができた」

そして直近の2026年3月24日は、浦嶋将之との10回ドロー。3人のジャッジのうち1人が浦嶋を支持し、2人が引き分けという採点でした。王座は防衛したものの、キャリアで初めて勝ちきれなかった試合です。この「勝てなかった1試合」のあとに、佐々木尽が来るという流れになります。

4.佐々木尽本人が語った「強さが分かりづらい選手」

相手をいちばん正確に見ているのは、戦う本人です。佐々木尽は2026年9月15日に公開されたCBCラジオ「竹内由恵のGood Shape Navi」の動画で、セムジュについてこう話しています。

「やっぱりうまい。距離感とか位置取りが超うまいってイメージですね」
「パッと見のスピードだったりはあんまりないので、強さが分かりづらい選手ではあると思います」

具体的な説明も出てきます。「サイドに回る」「パンチを打ちながら移動する」「相手がリターンできない位置に持ってくる」「空間把握能力というか、距離感覚がうまい」。要するに、当てるのがうまいというより、相手に当てさせない位置にいるのがうまいタイプです。

さらに率直なひと言がありました。

「最初は分かりづらかったです。いろんな人の意見も聞いたりして、こういうすごい強さがあるんだと確認して」

映像を見ただけでは強さの正体がつかめず、周囲の見立てを集めてようやく分かったという意味です。KOで24戦を駆け抜けてきた選手が、初見で理解できなかった相手。それがセムジュ・デビッドです。

東日本ボクシング協会の見どころ紹介でも、セムジュは「右ボクサーファイター型」「スタミナがあり後半に強い」と評され、被弾を抑えながら後半にペースを上げる展開が予想されています。佐々木の18KOが早い回に出るか、10回という長さに入るか。この試合はそこで決まります。

5.9月21日に、この選手が失うものと得るもの

この一戦は、佐々木尽にとっての「世界へのステップ」として語られがちです。しかしセムジュの側から見ると、意味はまったく違います。

  • 負ければ日本王座とWBOアジアパシフィック王座を同時に失います。33歳で、手元に何も残りません
  • 勝てば3本のベルトをひとりで持つことになります。世界ランカーの日本人を倒したという実績も付きます
  • 相手の地元・八王子での試合。会場の大半は佐々木の応援です

プロ11戦、そのうち日本での試合はまだ7戦。29歳でプロになった選手にとって、時間は限られています。「日本でボクシングのアカデミーを作る」という目標に近づくためにも、ここは落とせない試合です。

「佐々木尽の相手」ではなく、ふたりのチャンピオンが同じ日に全部を賭ける試合――というのが、当サイトの見方です。

6.よくある質問

Q. セムジュ・デビッドはどこの国の選手ですか?
A. ウガンダの首都カンパラ出身です。本名はKavuma David Ssemujju。日本の中日ボクシングジムに所属し、名古屋を拠点にしています。

Q. なぜ外国人が日本王者になれるのですか?
A. 日本ボクシングコミッション(JBC)のルールでは、JBCが資格を認めた外国籍の選手は日本タイトルに挑戦できます(OPBF加盟国の選手や、日本でプロライセンスを取得して一定期間滞在している選手などが対象)。「日本に住んでいれば誰でも」という制度ではありません。セムジュはウガンダ国籍のまま第59代日本ウェルター級王者になりました。

Q. 戦績と獲得タイトルは?
A. 11戦9勝(5KO)1敗1分。日本ウェルター級王座(4度防衛)、WBOアジアパシフィック・ウェルター級王座(1度防衛)、ウガンダ・ミドル級王座を獲得しています。

Q. 身長やリーチは?
A. 身長175cm・リーチ180cm、構えはオーソドックスです。佐々木尽(174cm・リーチ176cm)よりわずかに大きく、リーチは4cm長いことになります。

Q. 唯一の黒星はどんな試合でしたか?
A. 2024年6月8日、カムロンベク・エシュマトフ(カザフスタン)に8回1-2の判定負け。3人のジャッジのうち1人はセムジュを支持した僅差の試合でした。この2か月半後に日本王座を獲っています。

Q. 9月21日の試合はどこで見られますか?
A. Leminoプレミアム(月額1,540円・Web登録の場合)の独占生配信で、13:00開始です。会場は東京たま未来メッセ。試合順や前日イベントは9月21日のカードまとめにあります。